福音朗読:マタイ5章
朗読された箇所は、山上の説教の一部、真福八端、先週の地の塩・世の光に続く箇所です。トピックがいくつもあるので、説教が難しい箇所です。色々考えましたが、最近、あるカトリック学校で平和についての練成会があったので、その内容と繋げてお話しします。
私は「アンネの日記」などを題材に、平和についてお話をしました。
ご存知のようにアンネは、ナチスのユダヤ人迫害を逃れるために、父の経営する事務所の隠れ家で2年間息を潜めて生活します。
隠れ家での生活中、何度かヒトラーの暗殺計画のニュースをラジオで聞きます。あいにく暗殺作戦は失敗しましたが、“いい”ドイツ人がいることが実証されました。一部にそういう人たちがいるとすれば、他にももっといるかも知れない。一度でもヒトラー暗殺計画があったのなら、そのうちにまた起こることもありうる。そして今度は成功するかもしれない。あまりに虫の良すぎる望みだろうか?
と記されています。
1943年1月13日 隠れ家の外は悲劇そのもの。
「戦争がもたらした惨禍についてはまだまだ語ろうと思えば何時間でも語れますが、そうすれば私自身が落ち込むだけです。こうした不幸が終わるまでただじっと耐えて待つしかありません。ユダヤ人も、ユダヤ人以外の人たちもみんな待っています。全世界が待っています。そして、その一方では大勢の人が死を待っているのです。」
(『アンネ・フランク 時を越えるストーリー』NHK Eテレ 2020年8月15日放送)
1日でも早く、戦争が終わって解放されるのを、息を潜めて待っていました。
アンネの家族をかくまったミープは、こう書いていています。 (以下は『思い出のアンネ・フランク』ミープ・ヒース著 深町眞理子訳 文春文庫 1987年)
アムステルダムは昔から、あれやこれやの政治的圧力を逃れて来た人々に、隠れ家を提供して来た伝統がある。今でも、ナチの厳しい移民制限法にもかかわらず、市内は政治的難民と、宗教的な難民との両方ではち切れそうになっている。・・・どこにも空き部屋はなかった。
それでも「3人で住めるものなら、7人でも住めないことはなかろう」と4人家族をアパートに受け入れた支援者もいました。
ミープ自身はこう言っています。
占領下ではナチスに協力する者と、ナチスに抵抗する者、2種類の人間しかいなかった。自分はたまたま抵抗する側にいました。でもそれは、特に勇敢に振る舞おうと意図した結果ではありません。当然のことをしたまでです。自分たちだけが脚光を浴びたくない
(ロナルド・レオポルト アンネ・フランク・ハウス館長 『アンネ・フランク 時を越えるストーリー』NHK Eテレ 2020年8月15日放送)
と強調しています。一方、
この歴史から倫理的な教訓を得るとしたら、人々がどのような行動を選んだかに注目することだと思います。ユダヤ人を助ける道を選んだのか? ナチスの悪事に加担したのか?しかし、多くの人は、何もしないことを選んだのです。
ミープのように、ユダヤ人をかくまうのは、余程の覚悟が必要です。
徐々にドイツが後退していきます。 (以下は『アンネ・フランク 時を越えるストーリー』NHK Eテレ 2020年8月15日放送)
1944年6月6日 ああ キティー(日記の宛名) ノルマンディ 上陸作戦が始まって何より嬉しいこと。それは味方が近づいているという実感が持てることです。
その日、アンネは興奮してまるで本物の新聞記者のように、戦果のニュースを追いました。しかし、その後、ユダヤ人虐殺の動きが加速します。
1944年7月15日 親愛なるキティーへ こういう時代の難しいところは、そこです。私たちの中に芽生えた理想も夢も、大事に育んできた希望も、恐るべき現実に直面すると、あえなく打ち砕かれてしまうのです。 自分でも不思議なのは、私が未だに理想の全てを捨て去ててはいないことです。どれもあまりに現実離れしていて、到底実現しそうもないと思われるからです。 にもかかわらず、私は理想を捨てきれずにいます。なぜなら今でも信じているからです。たとえ嫌なことばかりでも、人間の本性はやっぱり善なのだということを。
アンネはまだ1944年の夏が最後の夏であることを知りません。
アンネの日記は1944年8月1日で途絶えます。 (以下は『思い出のアンネ・フランク』 ミープ・ヒース著 深町眞理子訳 文春文庫 1987年)
3日後(1944年8月4日)、ナチスがやってきて彼女を連行します。彼女の部屋は静まり返りました。 隠れ家が見つかってしまった後、ミープはナチからアンネたちを取り戻そうとします。かき集められるだけの金を集めて、ナチと交渉して連れ戻そうとさえします。 南アムステルダムにあるゲシュタポの本部に電話をかけます。 出直しになり2回目、ミープは即座に要点を切り出します。「いくら差し上げたら、こないだ捕まえた人たちを釈放していただけますか」 担当のナチと、上司のナチの高官にも交渉を試みますが、願いは叶いませんでした。 ミープの心の声がささやきます。「もう他に手はないかしら?」 でも、もはや取り付く島もないことは、わたしにもわかりました。いよいよ本当に万策が尽きました。
アンネの「こんな世の中でも人間は本来善なのよ」という言葉。
命が賭けでアンネの家族をかくまい、捕まった後もナチから取り戻そうとするミープの勇気。
悪が支配するユダヤ人狩りのアムステルダムで善の力も働いていました。
ロシアによるウクライナ侵攻が起きて間も無く1年。また、トルコとシリアでは地震がありました。
「私はどうなんだろう?」と考えさせられました。
カブトムシで難民支援をしてきましたが、1日でも早く、戦争が終わって欲しい気持ちが薄かったことを感じています。
逃げている人を必死に守ろうとする人たち。 生存者を探し続ける努力。
遠いところから眺めていたようだったと反省しています。
「私が来たのは、律法を完成するためである」 とイエスは言われます。
アンネとミープの心を思い浮かべながら、戦争・地震に見舞われている人々を支援しましょう。
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